男性特有の悩み

男性の頭皮の悩みとして多いのは、「細毛化・抜け毛」や「ニオイ」です。これらの悩みは、加齢や遺伝、ストレス、生活環境、病気などさまざまな要因が積み重なり生じます。男性はこれらの悩みを単独に持っているというよりは、複合的に抱えているケースが多いため、トータルでケアしていくことが重要です。

男性の頭皮の悩み <細毛化・抜け毛>毛母細部の活性低下、頭皮の炎症、頭皮の硬化<ニオイ>過剰な皮脂の分泌、ニオイ成分の発生、ニオイ成分の拡散

脱毛の種類と原因

脱毛症は、その原因や症状によっていくつかに分類されます。主な脱毛症は以下のようなものが挙げられます。

AGA
(男性型脱毛症)
頭頂部や前頭部の生え際など、男性ホルモンの働きにより、部位特異的に生じる脱毛のことです。思春期以降の男性や更年期を迎えた女性に発症し、遺伝など先天的な要素やホルモンバランスの変化により生じる脱毛症です。
びまん性脱毛症主に加齢やストレスなどによる細胞の機能低下が原因で生じる脱毛症です。更年期以降の女性に多く発症する脱毛症で、頭皮全体の薄毛・細毛が目立つのに加え、全身の体毛も薄くなるという特徴があります。
円形脱毛症自己免疫機能の一時的な異常により生じる脱毛症です。本来は体外から侵入してくる異物から身体を守るはずの免疫機能が、過度のストレスなどにより異常を起こし、局所的に毛根部分を攻撃し、毛根組織が萎縮してしまいます。その結果、脱毛を引き起こします。

これら脱毛の原因は、遺伝、食事・生活習慣、ストレス、頭皮環境、加齢、ホルモンバランスなどさまざまで、単一の要素が影響しているというよりは、以下に挙げるような原因がいくつか重なりあい脱毛するのが一般的です。

遺伝人体を構成する組織や酵素などさまざまな設計図が記録されているDNAの情報には個人差があり、それによって体質や外観上の違いが表れています。その中には薄毛や抜け毛を促進させるような情報もあり、それが発現することにより、毛髪の成長が阻害されます。
食事・
生活習慣
食事の栄養バランスが悪いと毛髪の成長に必要な栄養分を十分に補給できなくなります。また、喫煙は老化の原因でもある活性酸素を生じさせ、睡眠不足は細胞の働きを鈍くさせます。これらはすべて毛髪の成長を阻害します。
ストレス強いストレスを感じると、免疫機能に異常をきたし、炎症が引き起こされ脱毛が増えたり、自律神経がうまく機能しなくなることで、血行が悪くなり毛根まで栄養が運ばれず、毛髪の成長に大きく影響します。
頭皮環境毎日の洗髪を丁寧に行わないと、残留した皮脂が過酸化脂質になったり、皮膚常在菌の異常繁殖を引き起こしたりします。その結果、炎症やフケが生じ、皮膚のバリア機能を低下させ、毛根にダメージを与えます。
加齢年齢を重ねると細胞の活性低下や血行不良が起こり、毛髪の成長を促す成長因子(FGF-7など)がつくられなくなったり、毛髪を成長させるための栄養分が行きわたらなくなり毛髪の成長が阻害されます。
ホルモン男性ホルモンはヘアサイクルに大きく影響を及ぼす因子のひとつです。男性ホルモンと女性ホルモンとのバランスが変化したり、男性ホルモンが形を変えた活性型男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)が増えたりすると脱毛が引き起こされます。

AGAの特徴

AGAとは、androgenetic alopeciaの略で男性型脱毛症のことです。AGAは男性ホルモンの働きが大きく関与した脱毛症であり、近年の研究成果により、その特徴や脱毛に至るまでのメカニズムがあきらかにされてきています。

AGAは進行性の脱毛症(=放っておくと症状が悪化する)

脱毛症には、自己の治癒力で回復する「一時的な脱毛症」と、放っておくと症状が悪化していく「進行性の脱毛症」の大きく2つに分けることができます。
「一時的な脱毛症」の例としては、抗がん剤などの治療薬による脱毛、出産後の脱毛症などが挙げられます。一方、「進行性の脱毛症」の例としては、加齢による脱毛とAGAがあります。
AGAはクラスⅠ~クラスⅦに分類され、以下に示すような形で進行していきます。

AGAの特徴
※イラストはイメージです。
ハミルトン-ノーウッドの分類ごとの毛髪の状態
分類毛髪の状態
クラスI脱毛・薄毛が始まっていない段階。始まっていてもごくわずか。
クラスII額から1.5cm程度前頭部生え際が後退している状態。
クラスIII前頭部生え際が後退するか、頭頂部にあきらかな脱毛が認められる状態。しかしながら、頭頂部と前頭部の薄毛の間にはあきらかに毛髪のある部分が認められる。あきらかにわかる程度に後退するか、頭頂部にわずかなO型の脱毛が認められる状態。
クラスIVさらに前頭部生え際が後退するか、頭頂部にあきらかな脱毛が認められる状態。しかしながら、頭頂部と前頭部の薄毛の間にはあきらかに毛髪のある部分が認められる。
クラスV前頭部の脱毛の間に薄毛が進行し、両者がつながりつつある状態。
クラスVI前頭部の脱毛と頭頂部の脱毛の間はわずかに毛髪が認められる程度となり、ほぼつながった状態。
クラスVII後頭部及び側頭部にしか毛髪が残っていない状態。
Norwood OT:Male pattern baldness:classification and incidence, South Med J,68,1359-1365(1975)

AGAは遺伝的要因が強い

ヒトは親より半分ずつ染色体(≒遺伝子)を受け継ぎ、その特徴を次世代へと引き継いでいきます。性はX染色体とY染色体で決定されます。男性の場合は、父親からY染色体、母親からX染色体を、女性の場合は、両方の親からX染色体を受け継ぎます。
AGA関連遺伝子はX染色体上にあるため、男性の場合、母親・母方の祖父母にAGAの人がいると、いない人に比べてAGAを発症する確率が高くなります。また、父親の脱毛が子に関連していることも知られています。

AGAは遺伝的要因が強い
※イラストはイメージです。

AGAの原因は5α-リダクターゼ

AGAの原因が男性ホルモンであることはよく知られています。しかし、血液中の男性ホルモン濃度をAGA発症者と未発症者とで比較してみると、その濃度はさほど変わらないことがわかっています。では、何故男性ホルモンが原因といわれていて、何がAGA発症者と未発症者とで違いがあるのでしょうか?それは、AGA発症者では男性ホルモンを活性型男性ホルモン※に変換する5α-リダクターゼという酵素の活性が高く、それ故に、毛乳頭細胞中の活性型男性ホルモン濃度が非常に高くなっていることがわかっています。さらに、活性型男性ホルモンと結合すると脱毛シグナルを出す男性ホルモン受容体の発現量も多く、これら負の連鎖によりAGAは進行していきます。
※活性型男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)は、男性ホルモン(テストステロン)の10倍活性が高いといわれています

AGA発症者の特徴
1)男性ホルモン量(テストステロン量)は未発症者と変わりない
2)5α-リダクターゼの活性が高い
3)脱毛部位にある毛乳頭細胞内の活性型男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)濃度が非常に高い

前頭部・頭頂部脱毛部位の毛髪
※イラストはイメージです。

コラム ~AGAと体毛について~

なぜ毛髪は薄くなるのに体毛は濃いのか?

AGA発症者の前頭部・頭頂部及びひげの毛乳頭細胞は、ともに5α-リダクターゼという酵素によって男性ホルモン(テストステロン)が活性型男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)に変換され、男性ホルモン受容体に結合します。しかし、その後出てくるシグナルが前頭部・頭頂部毛乳頭細胞とひげなどの毛乳頭細胞では異なり、前頭部・頭頂部毛乳頭細胞では退行期を誘導するシグナルTGF-βが、ひげなどの毛乳頭細胞では毛髪の成長を促すシグナルIGF-1がつくられます。このため、AGA発症者は毛髪は薄くなるのにも関わらず、ひげや体毛が濃くなるのです。

腕やすね、ひげなどの体毛
※イラストはイメージです。

AGAは成長期を短くする

AGAの特徴のひとつは、ヘアサイクルが乱されて成長期が短くなることです。
ヘアサイクルは、毛乳頭細胞より出されるさまざまなシグナルによってコントロールされています。男性ホルモンは5α-リダクターゼの働きにより活性型男性ホルモンに変換されます。活性型男性ホルモンはヘアサイクルを成長期から後退期へ移行させるシグナルTGF-βをつくらせ、成長期を短くします。一説には、通常3~5年ある成長期が数ヶ月~1年程度に短くなるといわれています。これにより毛髪が十分に育たないうちに退行期、休止期へと移行し、ついには脱毛してしまいます。 つまり、AGAとは成長期の短縮により毛髪が十分に成長しきれず細毛化し、その上ヘアサイクルが早くなることで脱毛量が増えるという悪循環を引き起こす脱毛症です。

AGAは成長期を短くする
※イラストはイメージです。

最新のAGA研究について

最新の研究によると、プロスタグランジンD2(PGD2)がAGA発症者の頭皮で増えていることがわかりました。 PGD2とは、生理活性物質(身体の機能を調整する物質)の一種で、いくつかの機能を有することが知られていますが、この研究によると、PGD2がヘアサイクルにおいて、成長期から退行期に移行する際に急激に増加しているという実験結果が出ており、PGD2が毛髪の成長を抑制している可能性が示唆されています。つまり、PGD2を抑制することで退行期への移行が抑制され、毛髪の成長期を伸ばすことができると考えられています。(上図)。

スカルプケア ~AGAにおける細毛化・抜け毛の原因と対策~

細毛化・抜け毛の要因は、生活習慣の問題から遺伝的な要因までさまざまですが、これらの要因が引き起こす症状としては(1)頭皮の炎症(2)頭皮の硬化(3)毛母細胞の活性低下の3つに大別することができます。したがって、これらの症状を解消し正常な状態に戻すことが、健康で太く弾力のある毛髪をつくりあげる第一歩となります。
しかし、AGAにおける細毛化・抜け毛は、活性型男性ホルモンが成長期を短縮し、退行期を誘導していることがわかっています。したがって、AGAの対策としては(1)~(3)に加えて、5α-リダクターゼの働きを抑制することが重要になってきます。つまり、5α-リダクターゼや炎症により毛髪の成長を邪魔させないための「守りのケア」と、毛髪の育つ力を引き出し成長を促進する「攻めのケア」の両方がAGAのケアには必要なのです。

今ある毛髪を脱毛ストレスから守る~守りのケア~
※イラストはイメージです。

男性型脱毛に効果が期待される植物由来成分

チョウジやローズマリーより得られるエキスには、AGAに深く関与している5α-リダクターゼの活性を阻害したり、AGA発症部位に発現が確認されているPGD2の生産を抑制するなど、AGAの改善効果が期待されます。

男性型脱毛に効果が期待される植物由来成分

皮脂量と男性ホルモン

皮脂分泌のメカニズム

皮脂の分泌は、脂腺細胞が分化するにつれて脂肪滴を蓄え、それが破裂し表皮へと分泌(排出)されることによって起こります。

皮脂分泌のメカニズム
※イラストはイメージです。

皮脂量と男性ホルモンの関係

皮脂量は脂腺細胞の増殖や分化度合に左右されます。これをコントロールする役割を担うのが男性ホルモンです。男性ホルモンは脂腺細胞の増殖や分化を促進させます。女性に比べ、男子の方が皮脂分泌量が多いのはこのためです。

皮脂量は男性ホルモンがコントロール→皮脂量 男性>女性
※イラストはイメージです。

年齢と皮脂量の関係

皮脂は、男女問わず新生児期と思春期に分泌が活発になりますが、そのピークは女性で20代、男性で30代といわれています。その後、女性は男性ホルモン濃度が加齢とともに低下していくため皮脂量は減少していきます。一方、男性は男性ホルモン濃度の大きな減少はみられないため、皮脂量は減少するものの非常に穏やかであるといわれています。そのため男性は、年齢を重ねても脂っぽい肌の方が多いのです。

年齢と皮脂量の関係
※イラストはイメージです。

過酸化脂質が細毛化・抜け毛に及ぼす影響

過酸化脂質は洗髪後、時間経過とともに増加します。マウスを用いた実験では、過酸化脂質は毛包の細胞死を誘発するという結果が出ています。
ヒトの頭皮であれば、毛母細胞や毛乳頭細胞にダメージを与え、毛髪の成長を阻害する可能性が考えられます。

左:男性の頭皮における過酸化脂肪量の変化/右:過酸化脂肪処理による毛包の細胞死率

また、マウスを用いた実験において、未処理では成長期にある毛包の割合が約75%であったが、過酸化脂質処理をすることにより、退行期にある毛包の割合が約70%に増加することがわかっている。

過酸化脂肪質処理後17日の休止期、退行期の割合

ニオイケア ~頭皮のニオイの原因と対策~

頭皮のニオイと皮脂腺

皮脂腺と毛穴は常にセットで存在します。つまり、毛穴が密集している頭皮はそれだけ皮脂腺も密集しているということであり、そのため、皮脂の分泌量が多く、体の中でも特にニオイが気になる部位といえます。

頭皮のニオイと皮脂腺
※イラストはイメージです。

頭皮のニオイ発生のメカニズム

一般的に男性は女性に比べて、男性ホルモンの影響から皮脂分泌量が多いため、頭皮のニオイが強くなりがちです。頭皮のニオイが強くなる要因は、食事、ストレスなどの生活習慣の問題から遺伝的な要因までさまざまですが、ニオイが発生する原因は次の2つに大別することができます。
(1)頭皮常在菌による皮脂分解 (2)皮脂の酸化
頭皮のニオイ発生のメカニズムを理解し、正しいケアを行うことが男性特有の悩みを解消する第一歩となります。

頭皮のニオイ発生のメカニズム

頭皮のニオイケアの考え方

頭皮のニオイは、頭皮常在菌による皮脂分解や皮脂の酸化によって引き起こされます。ニオイケアにおいては、頭皮常在菌による皮脂分解や皮脂の酸化を抑制するだけでなく、頭皮を清浄に保ち、ニオイの元である過剰な皮脂を取り除くことや、発生したニオイを抑えることが重要です。

頭皮のニオイケアの考え方
※イラストはイメージです。

頭皮のニオイ抑制効果の検証

ハーフヘッドで、一方にはオム プライム スカルプシャンプーで洗髪後、オム プライム スカルプエッセンスを塗布し、もう一方にはカキタンニンとスパイシーアロマを抜いたシャンプーとエッセンスを塗布し、その後2日間洗髪せずにニオイの不快感を官能評価した。

左:低級脂肪酸の生成量/右:頭皮の不快臭官能評価